診療案内

不妊相談


不妊症の治療

1) 内服、注射

・排卵誘発療法

排卵誘発療法には、排卵障害に対して排卵を起こすという本来の目的と、より多数の卵子を排卵させることにより妊娠率を向上させる目的があります。まず、排卵誘発の代表的な方法について説明します。

(1) 視床下部障害に対する治療法

クロミフェン療法、クロミフェン/HCG療法
[製剤名]:clomid(クロミッド)、sexovid(セキソビッド)など

排卵誘発剤として広く用いられている製剤で、視床下部(間脳)を刺激して排卵を起こす作用があります。

視床下部(間脳)からはGnRHというホルモンが分泌され、卵巣からの排卵を起こします。このホルモンの分泌が少ない場合に、クロミフェンを投与することによりその分泌が促進されます

また、クロミフェンを使用して卵子が成熟しても、卵子を排卵させるのに必要なLHというホルモンが放出されないことがあります。この場合は卵胞が成熟した時点でLHと同じ作用を有するHGG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)という注射を投与して、卵子の放出を促します

[使用法]:月経第5日より5日間、1日1~3錠内服します。
クロミフェンの内服開始後10日位で卵胞(卵巣内で卵子を包む袋)が20~26mm位に発育し、排卵が起こります。

[副作用]:クロミフェン療法では、発育卵胞は1~3個とそれほど多くの卵子が発育することはありませんが、ごくまれに過剰刺激や卵巣腫大をきたすことがあります。また、服用中に吐き気を催すことがまれにあります。

(2) 下垂体障害に対する治療法

HMG/HCG療法
[製剤名]:HMGフジ、HMGテイゾー、フォリルモンPなど

HMGは下垂体から分泌される卵巣刺激ホルモンであるFSH作用を有する薬剤で、下垂体の機能が低下した無月経に対する治療薬です。下垂体無月経や多嚢胞性卵巣による無月経がHMG療法の適応となります。

下垂体からはLH、FSHという2種類のホルモンが分泌されますが、HMG製剤にもFSHと共にLHが含まれており、その含有量が製剤により異なります。

★一言

人により反応が多少異なり、それぞれの人に合うものを選ばなくてはなりません。

HMGには飲み薬はなく、注射による投与となります。

[使用法]:月経第3~5日より、筋肉注射。
卵胞直径が16~18mm、卵胞あたりのエストロゲン(E2)が250pgに達したら卵子が十分に成熟したと推定されます。この時点でLH作用を有するHCGを投与することにより排卵が起こる場合もあります。

★一言

HCGが早すぎると排卵が起こらず、閉鎖卵胞になる場合もあります(URF)。

(3) ブロモクリプチン療法

[製剤名]:パーロデル(ブロモクリプチン)、テルロン(テルグリド)、カバサール

下垂体からはプロラクチンというホルモンもまた、分泌されます。プロラクチンは通常分娩後に分泌が亢進し、乳汁分泌をもたらします。この抑圧が何らかの理由により妨げられ、プロラクチン(PRL)分泌が過剰になるのが高プロラクチン血症であり、無月経、排卵障害、卵子成熟障害、着床障害などを引き起こします

高PRL血症の内服治療薬としてパーロデル、テルロンがあります。

[使用法]:1日1~2錠。連日内服。悪心、嘔吐がある場合は1日半錠。パーロデル、テルロン共に脳幹で吐き気を起こす部分を刺激して、悪心、嘔吐を引き起こすことがありますが、飲み続けると症状が落ち着くことが殆どです。そのため最初の1週間は半錠のみ内服し、以後斬増することが一般的です。

最近パーロデルと治療効果は同じで吐き気の少ない薬剤であるテルロンが発売されました。カバサールという1週間に1回内服する薬もあります。

★一言

これも人それぞれで、飲みやすい方を飲めばよいです。

・黄体補充療法

排卵後、卵巣からは黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、胚(受精卵)が子宮内で発育する(これを着床といいます)ことを助けます。この黄体ホルモンの分泌が低いと着床が障害されます。その改善のために黄体補充療法を行います。

黄体補充療法には、黄体ホルモン(プロゲステロン:P)を使用する方法と、黄体ホルモン分泌を刺激するホルモンであるLHと同じ作用を持つHCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を使用する方法があります。

黄体ホルモン(プロゲステロン)

a)酢酸クロルマジノン(飲み薬)
[使用法]:1日1~3錠を排卵後、10日~2週間連日内服
[製剤名]:ルトラール

b)プロゲステロン(注射)
[使用法]:1日1~2回分割筋肉注射
[製剤名]:プロゲストン

c)ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル(注射)
[使用法]:1日1回筋肉注射
[製剤名]:オオホルミンルテウムデポー

HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)

[使用法]:排卵後3~5日毎に3000~5000単位を筋肉注射投与します。
[製剤名]:プレグニールなど

・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は卵巣の表面が硬くなり、卵子が排卵しにくくなる病気です。

PCOSはクロミフェン療法では排卵が起こらないことが多い一方、HMGを用いて排卵を誘発すると多児妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしやすい病気です。

PCOSの治療には手術療法と薬物療法があります。

[手術療法]

腹腔鏡を用いて卵巣の表面の一部を切除したり、電気メスで焼却します。手術後に薬を用いず、自然に排卵する率は約20%とやや低率ですがクロミフェン、HMGを併用した場合の排卵効果は手術後より高くなると共に、多児妊娠や卵巣過剰刺激症候群の発生率は低くなります。

[薬物療法]

1) クロミフェン療法、クロミフェン+プレドニン療法
PCOSでは副腎という組織から分泌される男性ホルモンが増加して、症状を悪化させることがあり、これを抑えるために副腎皮質ステロイドホルモンであるプレドニンを少量使用することで卵胞成熟が促進する場合があります。

2) クロミフェン+HMG療法、HMG+HCG療法
クロミフェン内服で排卵しない場合には、HMGあるいはFSHを用います。
多嚢胞性卵巣にHMG療法を用いた場合、多数卵胞が同時に発育するためOHSSに対する注意が必要です。

・子宮内膜症の治療

子宮内膜症が不妊を起こす機序は複雑であり、その治療法も不妊期間、年齢、進行度を考慮して決定する必要があります。

子宮内膜症の一般的治療には手術療法と薬物療法があります。

[手術療法]

開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、現在では可能な限り開腹手術を避け、腹腔鏡手術を行う傾向にあります。腹腔鏡手術の長所としては術後癒着が少ないこと、入院期間が短いこと、術後の痛みが少ないこと、お腹に傷が付かないことなどが挙げられます。

★私の場合

薬物療法後、腹腔鏡を行い、極力腹腔鏡下で手術をします。状況が悪い場合は薬物療法を追加し、保存手術をしています。

[薬物療法]

子宮内膜症の薬物療法に用いられる薬剤はすべて月経を止める作用を持ちます。つまり月経を抑えることにより子宮内膜症の進行を抑えるのです。

治療薬には
(1)偽妊娠療法
(2)GnRHアナログ療法
(3)ダナゾール療法
3種が使われており、いずれも4~6ヶ月治療を続けます。

(1)偽妊娠療法黄体ホルモンを使って月経を止める方法ですが、(2) (3)の治療薬が市販される以前に広く使われていた方法で、現在では治療と同時に避妊を希望する場合など限局的に使われます。

(2)GnRHアナログ療法視床下部から分泌される卵巣刺激ホルモンを抑えることにより卵巣ホルモンを低下させ、内膜症の進展を抑えるもので、3種類の薬剤が使われます。

スプレキュアとナサニールは点鼻薬で1日2~3回鼻に噴射します。ナサニールの方が濃度が高いので1回量が少なくてすみますが、人によっては喉の刺激が強いと感じることがあるようです。

スプレキュアMP1.8は月1回の注射で、同じ効果があります。

GnRHアナログ療法は投与して2週間くらい経たないと卵巣の機能(排卵)を抑えません。そのため治療開始直後は出血をきたしたり、卵巣が一時的に腫大することがあります。この現象は投薬を続けるに従い消失します。

GnRHアナログによるホルモン抑制の度合いには個人差があります。そのため同じ使用量でも月経を抑えるのに充分なホルモン抑制が起きずに不正出血が起こる場合や逆に抑制が強すぎるために冷や汗、のぼせ、手足のしびれなどの更年期症状が起こる場合があります。ただしこれらの副作用については投与量を加減したりエストロゲン内服薬を併用することにより、防止することが可能です。また、薬を中止すれば副作用もなくなります。

(3)ダナゾールはGnRHアナログと同様に卵巣からのホルモン分泌を抑えると同時に子宮内膜症組織に作用して病巣を直接治療する作用を有します。

ダナゾールは男性ホルモン様作用を持つために服用中に体重増加、男性比、機能異常などを起こすことがあります。

これらの内服薬を用いることにより、生理痛などの症状は改善します。しかしながら月経が元通りに回復すると、再び症状が悪化することも少なくありません。

子宮内膜症は月経があるうちは完治が難しい慢性疾患と考え、病気とうまく付き合っていくつもりで治療を続けることが必要です。また、手術療法、薬物療法を行った場合、それが有効であれば、1年以内に妊娠することが殆どです。

 

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